ひとりでも!
ひとりから!
エンパワーメント
子どもの権利とは
資料室
リンク集
あの人この一冊

JANIC NGOサポート募金
NGOアリーナ 寄付サイト
募金サイト イーココロ!
powerd by フェアトレード&オーガニックショップ福猫屋

あの人のこの一冊

ここは、様々な国際関係団体の方に書いていただいた書評を紹介するコーナーです。
〈第1回〉 推薦者 上田美紀さん
2003年よりシェア=国際保健協力市民の会 カンボジア事務所現地代表

推薦書 藤沢周平『秘太刀馬の骨』(文春文庫) 

海外生活20年近くになる私は、ここ6年程、藤沢周平の本にはまっている。海外に長くいるとたまにドップリ「日本的」なものに浸りたいと思うときがあり、6年前のある日、仕事で滞在していたクアラルンプールにある、紀ノ国屋書店に並んでいた藤沢周平の「用心棒日月称」に手を出したのを皮切りに、この6年で藤沢周平の本はほとんど読んだ。 数々ある藤沢周平コレクションの中から、今回開発ワーカーとしてこの本を皆さんにご紹介しようと思った訳は、この本が題名どおり、「秘太刀」の使い手を捜すという目的のサスペンス仕立てになっていて、犯人探しの過程が面白いことがある。しかし、それ以上に、秘太刀使い手の犯人探しをこの小説の縦の糸の部分とすれば、横糸になっている重要なポイントが主人公と妻の夫婦愛であり、個人的に身につまされる部分だからである。     

私事を言って恐縮だが、私は3年前、15歳年下のカンボジア人と「できちゃった婚」をし、男の子を出産した。結婚したときに同僚の皆さんから「国際結婚は最高の国際協力!」というありがたいお言葉を頂いたが、実演してみると、国際結婚と育児はプロジェクト運営に似て困難だらけ。育児の大変さはともかく、これだけバックグラウンドの違う人との共同生活は、15歳という年齢差など僅差と思えるほど、全てにおいてギャップを感じる。この小説の中で、主人公とその妻が、二人で背負った不幸の悲しみを分かち合いながら乗り越える姿に、自分と夫との関係を照らし合わせては、「夫婦」という目に見えない絆について考える。私はこの小説を少なくとも10回は読み返していて、最後のページなど暗誦できるほど(多分)熟読しているが、このページを開き最後の一文を読むたびに、胸に迫る感動で思わず涙があふれるのである。

(2005年11月9日稿 2007年1月加筆)

第2回〉 推薦者 中川香須美さん
カンボジア弁護士の会(Cambodia Defenders Project)職員

推薦書 Jacky Trevane『Invisible Women, 
True Stories of Courage and Survival』(Hodder & Stoughton)

途上国で生活している私にとって、休暇で海外に出る際の楽しみは本屋めぐり。つい最近訪問した南アフリカ共和国でも、本屋探しをして巨大なショッピングモールを歩き回った。以下に紹介する本は、購入した本の中でもっとも強烈な印象を残した本である。

“Invisible Women“と題するこの本は、さまざまな形態の暴力を経験した女性の体験記から構成されている。ドメスティックバイオレンス、名誉殺人、学校でのいじめ、あらゆる形態の想像を絶する暴力の体験記が語り手によって次々と紹介されていく。想像を絶する非情な暴力の実態を知らされ、その暴力を沈黙の中耐え抜く女性の姿が描かれている。筆者自身もドメスティックバイオレンスの被害者であり、筆者自身の体験記は“ファトワfatwa” (イスラム宗教指導者によって出される宗教令でここでは女性に対する死刑宣告) という本に綴られており、現在でも離婚した夫からの復讐の可能性がぬぐいきれないままの生活をイギリスで続けている。筆者はドメスティックバイオレンスのトラウマから立ち直るために自分の体験を本にまとめ、その後インターネットでホームページを立ち上げ、世界各国で暴力に苦しむ女性たちと通信している。この本は、そういったメールのやり取りから筆者が出会った女性たちから直接聞いた暴力の体験記である。

子どもが被害者であるドメスティックバイオレンスの被害者が語る“LAURA”と題する章は、両親からも兄弟姉妹からも家庭内で無視され精神的虐待の対象とされて育った女性が、トラウマに苦しみながらも自立して家族を持つまでの経験が語られている。“SHANNON”と題する章では、自分が実の父親から性的虐待を受けるだけではなく、妹までもが虐待の対象となっていた家庭で育った女性が、過去と直面しながら立ち直ろうとする姿が描かれている。本書で体験記を語る女性のほとんどは、殺害されるかトラウマから立ち直ろうとしているかのどちらかであるが、ドメステスティックバイオレンスの被害にあった子どもは2件とも立ち直って前向きに生活している点が興味深い。

カンボジアでも、女性はさまざまな暴力の対象になっている。25%の成人女性が家庭内暴力の経験者であり、最近の調査では75%の女性が近隣家庭での家庭内暴力を認知していると報告している。レイプは統計がないものの新聞をめくれば日常茶飯事であり、特に子どもを対象としたレイプや集団レイプが頻発している。人身売買はとどまるところを知らず、最近では海外に出稼ぎに出かける女性が様々な暴力の被害者となって帰国したり行方不明になったりするケースが後を絶たない。

本稿執筆時は女性に対する暴力撲滅キャンペーンの真っ只中であり、私自身もキャンペーン活動に追われている。女性に対する暴力が日常の一部となっている感が否めない中では終わりが見えない闘いだと思いつつ、一人でも多くの女性が暴力に苦しまずに生活できるようになればと祈念している。

(2005年11月28日稿)

〈第3回〉 推薦者 武田直樹さん
筑波学院大学社会力コーディネーター
本稿執筆時は、「24時間テレビ」チャリティー委員会カンボジア事務所代表)

推薦書 岡崎照男 訳『パパラギ―はじめて文明を見た南海の酋長ツイアビの演説―』
(立風書房)

ある南の島の酋長が書いたと言われる「パパラギ」という本には、彼が初めて見た文明社会を次のように書いている。「北の国の人たちは体を布切れで覆い、石の箱の中で生活し、丸い金属と重たい紙(お金)を何よりも大切にし、そのためには平気で殺し合いをする。自分たちで粉々に分解した時間に対して1分・1秒無駄に過ごしたといつも大騒ぎし、神様に近付こうと理解もできないおもちゃ(機械)を作り出し、我々の日常生活全てを粉々に職業というものに分解し毎日その決められた職業のみを繰り返し、たくさん考えたくさん物事を知っている頭の混乱の続く状況を教養と呼び世の中に広め、自分たちで作った自然を楽しみ、本当の自然な生き方を知らない可哀想な人たちだ。」

この南の島の酋長が過ごしてきた生活は、これだけ進歩し、物が溢れ、情報が飛び交っている今の社会の中では到底できるとは思わない。しかし、この言葉を単に現実離れした綺麗事として片付けてしまって良いのだろうか?

最近私が思うのは、極端に言うと今の生活は1割は生活するのに最低限必要な物、9割はあっても無くてもいい「無駄」な物のような気がする。つまり私の生活は多くの無駄な物の中で成り立っている気がする。この無駄の社会が回って、さらに拡大しているからこそお金で動く貨幣経済が成り立っているという現実はあるものの、この無駄を1割でも2割でも少しずつ減らして次世代に引き継いでいくことが、実は欲望と闘いながら生きていく我々人間の義務なのではないかと。そうでないと、自然は人間の生活に付き合いきれなくなってしまうのではないか。

今、世の中の流れはお金、物、力(武器)を持っている人が素晴らしい人・国である、という風潮があると思う。そして、発展途上国の人達は物もお金も無くて可哀想だと言う人がいる。本当に物やお金がないことが可哀想なことだろうか?もしかしたら物やお金や時間に操られて生活している我々のほうがそうなのかも知れないと思う時がある。

(2005年12月7日稿)

〈第4回〉 推薦者 片山信彦さん
(特活)ワールド・ビジョン・ジャパン事務局長

推薦書 今田克司・原田勝広 編著『[連続講義]国際協力NGO
―市民に支えられるNGOへの構想―』

(日本評論社)

本書は、明治大学経営学部公共経営学科の授業科目として開講された「公共経営学特別講義:国際協力NGOの役割―変遷と展望」の講義がもととなって出版されたものである。現代の国際協力NGOを取り巻く状況とその変化の動向、日本のNGOの現状や課題、各国政府・国際機関との関係などを、第一線で活躍しているNGOのリーダーや国連・経済団体関係者などが講師となって講義し、それらをまとめたものである。活動現場からの生の経験や、実際に直面している課題などが各講師によって書かれているため、臨場感溢れる内容になっている。扱っている分野も多岐にわたり、講師陣の構成もバランスが取れており、多角的な視点から国際協力NGOを理解できるようになっている。

第一部がNGOの歴史や役割、今日的課題。第二部はNGOの働きの実際で、地域開発、緊急人道支援、平和構築、アドボカシー等の分野で活動するNGOの活動紹介とNGOの基盤強化について。第三部が、国連機関、メディア、企業などとNGOの関係について、という構成になっている。

国際協力NGOについて余り知識の無い読者に対して、コラムや講師の所属する団体紹介などを設けて、基本的な知識を提供するための工夫も見られる。

また、「[資料編] NGOで働くということ-学生による国際協力NGOスタッフ・ヒアリング調査」の結果が掲載されているが、これは将来NGOで働きたいと希望する者にとってはNGOスタッフの実状を知るための良い参考になる。将来国際協力分野での働きを考えている若者には是非、紹介したい本である。                                        

(2005年12月13日稿)

第5回〉 推薦者 渡邉清孝さん
(特活)ハンガー・フリー・ワールド理事・事務局長

推薦書 Richard L.Daft『組織の経営学』(ダイヤモンド社)

本書は主に組織をマネジメントするための書籍であり、一見、開発ワーカーや若者層にはそぐわない書籍と思われる方がいるかもしれない。しかし、そういった層にも是非一読してもらいたい概念がちりばめられている。

どんな形であれ国際協力に携わるには当然、何等かの組織に属することになる。本書は、組織の概念や組織の文化・倫理価値観、組織のライフサイクルやコンフリクト(葛藤)など、組織がどのような原理で動くのかを知ることできる。熱い想いを持ち国際協力に携わる人々にとって、組織の持つ文化や構造、意思決定のプロセス、様々な環境の変化に対し戸惑いや葛藤を抱くことがあるかもしれない。その際に、本書を通じ、組織をより正確に、より深く見つめ分析することで、組織の一員として客観的に適切な対応を心がけるヒントを与えてくる一冊である。

(2005年12月23日稿)

〈第6回〉 推薦者 米倉雪子さん
日本国際ボランティアセンター(JVC)カンボジア事務所代表

推薦書 Thich Nhat Hanh『Being Peace』(Parallax Press)

貧困や人権侵害の問題を知り、社会開発や平和の活動に入り込んでいくと、どうしようもない大きな壁につきあたったり、怒りや徒労感、哀しみに心が引き裂かれるように感じることがある。そんな時、心をいやし、再び歩み出すきっかけをくれるのは家族や友人、そして先人達の一言だったりする。カンボジアで平和活動をする友人に紹介されたこの一冊。(以下、原文から)
“If we are not happy, if we are not peaceful, we cannot share peace and happiness with others, even those we love, those who live under the same roof.  If we are peaceful, if we are happy, we can smile and blossom like a flower and everyone in our family, our entire society, will benefit from our peace. (p.3)”“Many of us worry about the situation of the world.  We don’t know when the bombs will explode.  We feel that we are on the edge of time.  As individuals, we feel helpless, despairing.  The situation is so dangerous, injustice is so widespread, the danger is so close.  In this kind of situation, if we panic, things will only become worse.  We need to remain calm, to see clearly.  Mediation is to be aware, and to try to help. (p.11)”過去に葬られたかにみえたGive Peace a chanceとLove &Peaceというメッセージが、再びこれほど現実味をおびるとは思わなかった年の暮れに。プノンペンにて。

(2005年12月25日稿)

〈第7回〉 推薦者 平田晶子さん
(本稿執筆時は国境なき子どもたち カンボジア現地代表)

推薦書 小口尚子・福岡鮎美『子どもによる 子どものための「子どもの権利条約」』
(小学館)

カンボジアに赴任した翌日、上司から手渡された英文のハンドアウトにあったSurvival、Protection、Development、Participation、の4つの文字。皆さんにはこれらの意味するところがピンとくるだろうか。当時驚くほど無知だった私には、残念ながらピンとこなかった。ユニセフは「子どもの権利条約」に謳われている「子どもの権利」を大きく4つにまとめている。上述の4つがそれである。早速原文にあたってみるものの、何度読んでも難しい。もう少し理解し易い訳はないだろうかと探しているときに出会ったのがこの本。アムネスティ・インターナショナル日本支部主催の「子どもの権利条約 翻訳・創作コンテスト」にて最優秀賞を受賞した、当時14歳だった小口尚子さんと福岡鮎美さんの作品である。「‘まっすぐ生きるために’大人に対して、ぼくは言う。」という冒頭の言葉に吸い寄せられ、心地よいリズムを持つ文章に引き込まれ、散りばめられた美しい写真の数々に目を奪われているうちに、一気に読み終えてしまった。本から聞こえてくるのは、子どもたちの真摯で切実な願いの数々。書かれているのはどれも至極当然なことばかりなのに、それと相容れない状況下にある子どもたちが如何に多いことか。条文にある「児童労働、人身売買、性的搾取などの搾取から保護される権利」や、「たとえ法律に触れた場合でも尊厳と価値を保障される権利」を与えられなかった、あるいは未だに与えられていない子どもたちと接しながら、そして彼らに教えられながら、「私にも」できること、「私にしか」できないことを日々模索し続けている。まずは、この本の「ほんとのまえおき」に目を通してほしい。知ろう。考えよう。 少しずつ。ひとつひとつ。きっと「あなたにも」できるはずだ。

(2006年1月3日稿)

〈第8回〉 推薦者 甲斐田万智子
国際子ども権利センター共同代表

推薦書 Regional Working Group on Child Labour
『Learning to Work Together  A handbook formanagers on facilitating children’s participationin actions to address child labour』

本書は、国際子ども権利センターが支援しているカンボジアのNGO子ども権利基金(Child Rights Foundation)のスタッフ、スクンティアさんから紹介されたガイドブックです。彼女は、高校生のときから子どもの権利を守る活動をしてきて、自分の子ども参加の実践の経験を活かしながら、CRFで子ども参加を進めていました。

前置きが長くなりましたが、そんな彼女が「これいい本ですよ」と下さったのです。出版団体はバンコクにあるNGOで、アジアで児童労働に取り組んでいるNGOのための調査研究、出版活動をしています。「最悪の形態の児童労働をなくすアクションにおける働く子どもの参加」(2001年)という出版物も出しましたが、こちらが参加する子どもの能力強化に重点を置いていたのに対し、本書は子ども参加を促進するおとなの能力強化に焦点をあてています。「子ども参加とは、おとなの学びのプロセスである」という考え方が全体を通して一貫して流れています。本書は、児童労働に取り組むNGOの働く子どもとプログラムマネージャーとの協働によって生まれたものです。子ども参加を実施するためのマニュアルというより、一人一人が本書を読むことで、自分自身の子ども参加に対する考え方を振り返り、子ども参加の活動を計画するのを手助けすることを目的としています。

第1章では、「子ども参加とは何か」「なぜ子どもが参加すべきか」「なぜ働く子どもが参加すべきか」というような基本的な問いに答えながら、どんなことに気をつけるべきかを提示しています。たとえば、なぜ働く子どもが参加すべきか、という問いに対しては、働く子どもたちは、社会で最も力を奪われた存在だが、それは単に彼らの仕事によって差別されるというだけでなく、彼らの家族がパワーの中心から疎外されているからだとしています。そして、そういう子どもたちが自分たちの権利について情報を得て、自分の意見を表現することによって、自分で自分を守ることができるという自信や自身の権利侵害に立ち向かっていくことができるようになるのだと主張しています。さらには、人権に基づいてルールをつくることの大切さを説いています。つまり、「お互いに尊重し合うこと」をルールにし、おとなは子どもを尊重するだけでなく、子どもにほかの子どもだけでなく、おとなを尊重するように教えなくてはいけないと書いています。そして、その尊重は、人として平等に尊厳、価値観、権利を尊重するものであり、アジアの価値観である年齢や地位に基づいて尊重するものではない、人権に基づいた尊重というものは、権力や権威を意識的に使わないで意思決定をすることだと解説しています。

第2章では、子どもと接触する、計画を立てる、実施、モニタリング・評価など、プログラム実施サイクルにおける子ども参加の具体的な方法を提示しています。たとえば、モニタリング・評価においては、常に子どもに対して尋ねるべき質問として、「意見を聞いてもらっていると感じる?」「参加したいと思っているのに参加できていない活動がある?」「行動や決定の結果に納得している?」などが挙げられています。

「子どもと取り組む」という第3章では、「子どもから子どもへ」、「児童労働について知らせること」「会議へ子どもを代表として送ること」「働く子どもの組織化」などについて考える章となっています。たとえば、「子どもから子どもへ」というセクションでは、必ずしも子どもが真に参加しているとはいえない。特に子どもが計画に参加していないことが多い、という指摘がされています。

そして最後の「参加を可能にする」という章では、「組織を変える」「社会を変える」ことに対しての提案をしています。「子ども参加とは、組織の学びのプロセスであり、絶えずより良い実践のために、子どもとおとなと協働で文書化し、フォローアップし、振り返らなければならない。」と書かれています。

それぞれの章には、学びのポイントと、振り返るための質問集が用意されていて、実践的でとても使いやすくなっています。英語なのが弱点ですが、国際子ども権利センターで子どもと一緒に活動する際にも、大いに役立ちそうな1冊です。どなたか日本語に訳しませんか。

(2006年1月31日稿)

〈第9回〉 推薦者 八木沢克昌さん
社団法人 シャンティ国際ボランティア会 常務理事・カンボジア事務所長

推薦書 渡辺淳一『鈍感力』(集英社)

NGOの職員として国際協力に関り海外暮らしも今年で、28年目。インドシナのタイ、ラオス、カンボジア、ミャンマー等の難民キャンプ、スラム、辺境の農村、国境の地域に関りに大半の時間を過ごして来ました。日本を永く離れていると気になるのが、日本で今、どんな本が流行しているのか。読まれている本は、世相を反映し「日本の社会を写す鏡」。

今年の流行語にもなりそうな「鈍感力」を気になって読んでみた。「鈍感力」という奇抜な名前と著者が、話題作「愛の流刑地」「失楽園」等の数々の著書で知られる渡辺淳一氏。著者は、元々は、外科医で医学博士。これまでに直木賞、菊池寛賞、吉川英治文学賞も受賞している。

「それぞれの世界で、それなりの成功をおさめる人々は、才能はもちろん、その底に、必ずいい意味での鈍感力を秘めているものです。鈍感、それはまさしく本来の才能を大きく育み、花咲かせる、最大の力です。」この本は、こんな出だしで始まる。現代の複雑な社会を永くよりよく生きるための渡辺淳一氏流のアドバイス。

著者が医師であっために医学的な視点からも鈍感力の大切さが指摘されていて説得力がある。身近な日常生活から健康、自律神経、血液の流れの大切さ、ガンとの闘い方、恋愛、結婚生活、女性の強さの秘密、会社で、国際社会で生きていくために鈍感力がいかに大切かが書かれている。「鋭さ」に対して「鈍さ」を際立たせている。普通は、「鋭い人」は、プラスのイメージで出来る人。「鈍い人」は、無神経、駄目な人の意味でマイナスのイメージ。「鈍い人」言われていい気持ちのする人はいない。

しかし、ここで書かれている鈍感力は、よく読んでみると場面により別の言葉に置き換えられる。寛容力、適応力、抵抗力、精神力、忍耐力、生命力、適応力、受容力、包容力等。別の表現では、本文中にも何度か出てくるが、逞しさ、したたかさ、しぶとさ、おおらかさ、ずぶとさ等である。

思わず笑ってしまったのは、今年、鈍感力が出て話題になった2月に、小泉元首相が安倍首相に対して「目先のことに鈍感になれ、鈍感力が大切。支持率が上がったり下がったりを気にするな」とアドバイスしたという。本当に物事に鈍感な人や人権感覚の無い人、影響力の強い一国の首相が、この「鈍感力」を読んで、鈍感さを正当化されたら困ると思った。

混沌とした南の国の国際協力、NGO活動や異文化社会、人権の現場の最前線では、よい意味での鈍感力も確かに大切だと思いました。そして、何よりも日本の社会が、このよい意味での鈍感力を一番必要としているのだと思いました。たまに人権や貧困、社会問題等を忘れて、気楽に読み人間の性(さが)を理解するのにお勧めの一冊です。

(2007年4月30日稿)

〈第10回〉 推薦者 藤岡恵美子さん
(特活)シャプラニール=市民による海外協力の会 ダッカ事務所長

推薦書 永江朗『インタビュー術!』(講談社現代新書)

「インタビュー術!」は私がダッカに赴任してくるとき、最初の荷物に入っていた一冊です。スーツケースの大小と手持ちの荷物だけで数年のバングラデシュ暮らしをすることになったとき、持って行こうと選んだ本にはだいたい三種類ありました。一つは、辞書や辞典、ガイドブック、語学の本、お料理の本など、「勉強したり調べたりするための本」。二つ目は、小説、写真集など「楽しむための本」、三つ目は「ヒントを得るための本」。数年の駐在生活の中で何かに行き詰まったとき、それを打開するのに役立ちそうな本を数冊、私はそれと意識せず選んでいたようです。

「インタビュー術!」はこの三つ目のカテゴリーにあたります。NGOの駐在員はジャーナリストではありませんが、活動現場で起こっていることを日本にいる関係者や支援者の方々にタイムリーに伝える責任があります。「話して伝える」ことは帰国しない限りできないので、会報や報告書、ブログなどに「書いて伝える」ことが主になりますが、現場で仕事をしていると入ってくる山のような情報や経験のうち、何を選びどこにどう書くかはいつも悩むところです。

山のような情報や経験」と書きましたが「現場で人々の話を聞く」ことについて言えば、駐在員といえども無制限にチャンスがあるわけではありません。首都に住みながら複数のプロジェクト運営に携わっていると、ひとつひとつの活動現場にそれほど長くは行けませんし、村人に話を聞くといっても何時間もつかまえるわけにはいきません。限られた訪問の中で、農村に暮らす人びとや、都市部で働く子どもたちなどの思いの核心部分をいかにして聞き出すか。そして、彼ら・彼女らの言葉を文章に書くときには、いかに生き生きとわかり易く、嘘のない表現で伝えられるか。さらに、その中にどれだけ自分の考えや所属するNGOの姿勢を入れ込んでいけるか。これはもの書きのプロではない駐在員にはかなり難度の高い仕事です。その文章が活動に協力いただく募金の金額を左右するかもしれないという状況にあれば尚さら、こんな文じゃダメだと投げ出したくなります。

会報原稿などの締切りを前に、伝えたいことがどうにもうまくまとめられないとき、紹介したい人の息遣いが感じられる文章が書けないとき、パソコンからしばし離れて、この本をパラパラめくります。著者はインタビューや書評を中心に取材・執筆活動を行うフリーライター。自身がインタビューという仕事にどう向き合っているか、どんな風に準備をし、どんな風にまとめるか、さらに様々なインタビュアーたちの仕事の特徴など、実に親切に書かれています。

第一章「インタビューに出掛ける前に」、第二章「インタビューに行く~話の聞き方、まとめ方」、第三章「インタビューはこう読め」と三章に分かれ、どの章も面白く役立つのですが、読んで楽しいのは第三章。「糸井重里に話の聞き方を学ぶ~『ピーコ伝』の読み方」「対談のホストというあり方~吉行淳之介に学ぶ」など、なるほど一流のプロとはすごいものだなあ、と、解説がなければ読み流してしまいそうな、さりげない表現に隠された巧さに気づかされます。

今日この書評を書くため久しぶりに読んで、あらためて著者の「話を引き出して書く」仕事への真摯な姿勢に打たれました。もの書きでなくても、NGOスタッフでなくても、あらゆる仕事の中に「インタビュー」はあります。多くの方に参考になる本だと思います。

(2007年5月1日稿)

寄付のお願い
最近の記事
カテゴリー
月別アーカイブ
 Copyright(C) (特活)国際子ども権利センター All rights reserved.