お知らせ

スタッフ紹介:HCCスバイリエン現地調整員シム・ピセット氏

カンボジアだより

2009年02月3日

 


MrPiseth今日は、シーライツの現地パートナー
NGOHCCHealthCare Centre for Children)のスタッフ、シム・ピセットさんの紹介です。シーライツとHCCが協働で実施しているカンボジアでのプロジェクトはいくつかありますが、その一つ、スバイリエン州(ベトナム国境近くの州)の農村で実施しているスバイリエン・プロジェクトを現地で運営している一人がシム・ピセットさんです。

 

まずは、簡単にスバイリエン・プロジェクトについて説明をします。

O  収入向上プログラム:貧困が理由で出稼ぎに出ていた家族や子どもが、再び出稼ぎに出なくてすむように、また出稼ぎに出た先で人身売買の被害や児童労働などの子どもの権利侵害を防げるように、収入を向上することで、子どもの権利を守るというもの。

    牛銀行:選定された村の選定された家庭に、牛飼育法指導後、牛を貸出すことで、農業の効率を上げ、収穫量の改善・収入の向上を目指し、少女たちが出稼ぎに行かずに、学校に通い続けるようにする。

    農業技術指導:選定された村の選定された家庭に、野菜・果物栽培法を指導し、種を支給することで、適切な農業の運営と収入向上を目指す。

O  奨学金制度:登校・勉強に必要な文具、制服を支給し、子ども達の教育を受ける権利を守る。

O  学校や地域でのトイレ・井戸・灌漑ポンプの設置支援:学校にトイレがなく、外でトイレをすることを恥じ、子どもが退学するのを防ぐ。農業のための井戸や灌漑ポンプの設置をすすめる。

O  人身売買防止ネットワーク:学校・地域を拠点としたネットワークの中で、子どもの権利・人身売買などに関するワークショップを開催し、人々の意識の改善を図ることで、自分の身の守り方を学び、子どもの権利侵害を未然に防ぐ。

 

HCCはスバイリエンにも事務所を構え、以上のプロジェクトをスバイリエン・プロジェクトとして実施しています。現在2人が勤務しており、ピセットさんはその一人です。ピセットさんにカンボジアだよりに登場してもらったのは、現場でどういう人が実際に働いているのかを皆様に知って頂きたかったことや、何度か出張でスバイリエンを訪問し、彼の、プロジェクトや貧困削減、人身売買防止に対する熱意を感じたからです。活動をしている彼の姿が私にはとても眩しく見えましたピセットさんは、ベトナム戦争中の1969年に生まれました。幼いころに抱いていた夢は警察官になることだったそうです。高校卒業後、9ヶ月間警察官($25/月)として仕事をしました。そして結婚し、警察官の給料では家族を賄えないため、退職しました。タクシードライバーとして2年仕事をしたあと、プノンペンへ行き、人権に関するトレーニングコースに参加しました。トレーニング終了後、約23ヶ月は無職だったそうですが、UNTAC(国連カンボジア暫定統治機構)で、人権について人々にトレーニングを実施するトレーナーとして仕事につきました。1993年には国政選挙の監視委員も務め、その後、リカド(カンボジアローカル人権NGO)で、スバイリエンにて仕事をしていました。2年間はトレーニング、その後3年は人権侵害の調査をしていたそうです。そして1998年、CCPCR(カンボジア国内における児童虐待や性的搾取、人身売買の被害にあった子どもや被害を受ける可能性のある子どもの保護・防止活動を主にするNGO)に所属し、スバイリエンで勤務していました。ここでは、子どもの権利侵害の訴えを受け付ける窓口として働いていたそうです。2004年に、HCCにて9ヶ月間トレーナーとして仕事をしていましたが、その後、ワタナピエップ(子どもの人権の推進活動をするカンボジアNGO)で2年間、権利侵害を受けた子どもや受ける可能性のある子どもを対象に、カウンセラーとして仕事をしていました。ワタナピエップでの仕事の後、再びHCCに戻り、現在に至ります。今は、スバイリエン・プロジェクトの対象村や家庭内の調査や、人身売買防止ネットワークにおけるワークショップの企画運営や評価、ワークショップ内で、子どもの権利や人身売買についての話などをするのがピセットさんの仕事です。シーライツが経済的に支援している資金で、実際に村の人と直接関わり現場で動いているまさにその人です。

 

ピセットさんが子どもの権利について初めて知ったのは、CCPCRで仕事をしていた時だそうです。彼はスバイリエン州の約80%の地域で、子どもの権利について教えていたそうです。今の仕事をしていて、コミュニティーや子どもや村の人と働くこと、自分自身の守り方や、地域差・地域色(例:プノンペンとスバイリエン)などについて話をすることがとてもやりがいがあるといいます。逆に、村の人々への働きかけなどのソーシャルワークは、結果が出るまでに時間がかかるので大変なようです。例えば、今実施している奨学金制度について。奨学金を受給した子ども達をピセットさんは心配しています。彼らの教育がどこまで継続されるのか不安だからだそうです。

 

最後にピセットさんの将来の夢は、大学の法学部で勉強をしたいのだそうです。というのは、現在カンボジアにある法律は富裕層だけのために施行されているからだそうです。たとえば、人身売買の被害に遭った子どもが裁判にかかった時に、裁判費用を支払うのは被害に遭った子ども(の家族)であることが多々あるそうです。そういった子ども達を守りたいという思いから、大学で法律を勉強したいと彼は言います。また、彼の4人の子ども(長男次男:高1、長女:中23男:6歳)に高校卒業してほしいという夢も抱いています。

 

以上がピセットさんに伺ったお話です。

毎回、スバイリエンでピセットさんに会うたびに、私はエネルギーや「カンボジアの将来に希望あり」という思いをもらって、気持ち新たにプノンペンに戻ります。ピセットさんが活動する姿を見て、多くの村の人や、子どもたちが自分たちの活動にやる気を見せています。私もピセットさんからいい影響を受けている一人です。以前に会った村長さんはあまり活動に興味を示している様子は見られませんでしたが、ピセットさんと村長さんの関係が深まった事で、村長さんも今では興味を示し、積極的に野菜栽培や、自分が所有する土地を貧しい家庭へ貸出しするなど協力的になってくれています。急には変われないけれど、少しずつ、ゆっくり、人の態度が、人が、家族が、村が、学校が、コミュニティーが、そして、国全体が変わっていけばいいなと思いました。

 

皆様からご支援頂いているシーライツの活動、スバイリエン・プロジェクトは、ピセットさんがいるから大丈夫だという安心感を皆様にお届けし、この場をお借りしてシーライツの今後の活動への支援もお願いいたします。

 

甲斐田です。一言補足させて頂きます。

ピセットさんがどんな思いで活動をしているかということは、カンボジアだよりのブログ「支援地域で起きた少女レイプ事件」(2007523日)でも紹介したことがあります。貧しい家庭の7歳の少女が村で権力をもっている近所の家庭の息子によって、レイプされた事件ですが、加害者はすぐに逮捕され起訴されました。このような迅速な対応ができたのも、ピセットさんが人一倍の正義感をもっていて、こんなことは許さないという姿勢で取り組んだからだと思います。カンボジアでは、残念なことに、幼い少女たちがレイプ被害に遭うケースが増えています。彼のようなスタッフが、子どもたちだけでなく、村のリーダーや村人に子どもの権利を広めてくれているおかげで、その後、このような事件が支援地域では起きていません。彼が法律の知識を身につけ、それが地域に広がることによって、カンボジアにおける法の執行力がさらに強まることを願っています。

 

シーライツ あなたにできること:http://www.c-rights.org/join/kaiin.html

シーライツ ホームページ:http://www.c-rights.org/

 

*記事・写真掲載にあたり、本人の了解を得ています。

 

子どもの権利についての研修や人身売買・児童労働に関する子ども向けの啓発に必要な文房具を配布することができます。

童話や物語の本を5冊購入し、本が傷まないように補強してから図書室に届けることができます。

村の清掃と衛生について学ぶ「ゴミ拾いキャンペーン」を1回開催することができます。