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ベトナムで働くうちに家族と生き別れになった少女の劇を子どもたちが上演

カンボジアだより

2015年04月25日

 

ベトナムで働くうちに家族と生き別れになった少女の劇を子どもたちが上演

2014年から数か月かけてタナオのお寺の本堂の改修工事が行われてきましたが、先日ようやく改修が終わり、それを記念した式典が開かれました。式典には、400名を超えるタナオの住民が集まりました。そこで、シーライツのトレーニグを受けたピア・エデュケーターが啓発の劇を上演しました。

改修工事を終えたお寺

子どもたちと一緒に作ったストーリー

劇のストーリーは、カンボジア人スタッフのブントゥーンが子どもたちのアイディアを取り入れながら作りました。このような内容です。

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ある村に、兄のタナオと妹のドンが、両親と2人の弟妹と住んでいました。父親や朝から仲間とお酒を飲んで酔っ払っています。母親はカードゲームの賭け事ばかりしています。父親は、家に戻っても母親が家事をしないので、腹を立てて、母親に暴力をふるいます。家が貧しかったので、タナオとドンは学校にも行かず、両親のかわりに家事を一生懸命手伝っていまいした。

そんな兄妹のことを学校の友だちや先生が心配して、ついに校長先生が家にやってきて、「子どもを学校に通わせるように」と両親を説得します。

そうして、2人は学校に通えるようになりました。しかし、タナオは勉強が好きではなく、学校に通うより家族のために働きたいと思っていました。一方、ドンは頭がよく、勉強が好きでした。
 ある日、村にベトナムへの出稼ぎを斡旋する業者がやってきて、両親に「子どもをベトナムに出稼ぎに出すと稼げる」と話を持ちかけました。それを知ったタナオは「自分が出稼ぎに行く」と主張しましたが、斡旋業者は両親に「女の子のほうがたくさん稼げるので、家族への送金もたくさんできる」と助言したため、ドンが出稼ぎに出されることになりました。

しかしベトナムに着くと、ドンは斡旋業者によって、あるベトナム人の裕福な家庭のメイド(家事使用人)として売られてしまいます。ドンはその家庭で暴力をふるわれながらも家事を頑張りました。さらに、その家の主人から、物乞いをしてお金を稼ぐように言われます。ベトナム語がわからないドンにとって、物乞いでお金を稼ぐことは大変でした。主人から、「お金が稼げるまで家に帰ってくるな」と言われ、ドンは夜は、橋の下で寝泊りしました。

そのうちに、ドンは体調を崩し、高熱を出して動けなくなってしまいます。そして、警察に拘束されてしまいました。 高熱の後遺症で記憶をなくしてしまったドンは、自分の家がどこかもわからなくなってしまい、カンボジアに強制送還され、孤児院に入りました。やがてNGOのサポートを受けて学校に通い、成長して看護師になることができました。

看護師としてボランティア活動をしていたある日、ドンはある貧しい村を自分の故郷とは知らずに訪れました。すると、見たことのある村の景色に過去の記憶が戻りました。そして、その村でタナオや両親に再会しました。タナオは家族を養うために、一生懸命農業をしていました。タナオは子どもの頃に十分に教育を受けていなかったために良い職業には就けず、家族も貧しいままでした。ドンは故郷の村に帰り、看護師として働くことにきめました。家族を支えながら地域の人々にも貢献しました。

家族の再会の場面

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「わたしたちの村はかけがえのない故郷」―劇に込めたメッセージ

シーライツの事業地タナオ・コミューンでは、貧困家庭の子どもが家族を助けるために、教育を犠牲にして子どものうちから働くことで、おとなになっても良い仕事に就けず、結果としてその少ない収入では家族を支えることができず、さらにその子どもが働かなければならない、という負の連鎖が起きています。出稼ぎに出ていく住民の中には、故郷のタナオ・コミューンで農業や畜産業で地道に働くことを嫌い、華やかな都会で、短期間で当座のお金が稼げる出稼ぎや物乞いに魅力を感じる人も少なくありません。しかし、パスポートも持たず、出稼ぎ先での仕事内容や滞在先について詳しく知らされることなく、斡旋業者に連れられて行った場合、人身売買の被害にあう危険性が高いことや、出稼ぎ先で搾取されたり虐待されたりする可能性があることを知っておかなければなりません。さらに子どもが物乞いに出されれば、学校に通うことができなくなり、教育を受ける機会を失ってしまうのです。

そこで、このストーリーには3つのメッセージを込めました。1つ目は、故郷はかけがえのない場所であり、故郷を愛する気持ち、故郷への感謝の気持ちを忘れないでほしいということ、2つ目は、教育の重要性を再確認してほしいということ、3つ目は、出稼ぎの危険を知らせること、です。

迫真の演技で観客を魅了

このストーリーにもとづいて、ピア・エデュケーターが自分たちで配役や台詞を考えました。そして、総勢30名を超える子どもたちが演じることになりました。いざ劇の練習をしてみると、演じ終わるまでに3時間もかかってしまいました。そこで、場面ごとに台詞や動きを整理したりして、何とか1時間に収まるようになりました。最初から最後まで通しの練習を3回行い、本番に臨みました。

そして、いよいよ当日。400名を超える観客を前にしても、子どもたちは臆することなく演じ、時には会場に集まった人たちの笑いを誘ったり、迫真の演技で観客を魅了したりしました。


「演じることで自信がついた!」子どもたちの感想

劇の振り返り

劇を演じた子どもたちは、「今まで人前で演じたことはなかったけれど、演じることに自信がついた。」「とても楽しかった。ほかのイベントや学校でも機会があったら演じてみたい。」「最初は演技なんて難しいと思ったけれど、やってみたら以外とうまくできた。」「両親も当日、劇を見に来ていて、家に帰ったら『よくやった』とほめてくれた。」と感想を述べていました。

今回の劇には参加しなかったけれど、当日会場に足を運んで劇を観たという子どもたちは、「友だちが演じているのを見て、誇らしい気持ちになった。」「とてもよかった、楽しかった。」と言っていました。

会場に来ていたある女性は、「うちの子どもはピア・エデュケーターではないし、この劇にも参加していなかったけれども、こういうふうに劇を演じる機会があったら、うちの子どもも参加させてみたい」と言っていました。

今後もシーライツは、子どもたちが自分たちの声を地域に発信していけるようサポートしたいと思います。

子どもの権利についての研修や人身売買・児童労働に関する子ども向けの啓発に必要な文房具を配布することができます。

童話や物語の本を5冊購入し、本が傷まないように補強してから図書室に届けることができます。

村の清掃と衛生について学ぶ「ゴミ拾いキャンペーン」を1回開催することができます。