お知らせ

性的搾取される子どもたち

カンボジアだより

2010年12月10日

 

性的搾取される子どもたち

カンボジアの子どもたちと人身取引

カンボジアは人口の約半数を子どもが占める国です。町中には多くの子どもたちがあふれ、南国の陽気な雰囲気にくわえて子どもたちの活気がみなぎっています。子どもたちの笑顔を見ていると、たくさんの元気をもらえる国です。ところが、残念ながらカンボジアには人権侵害の問題が多く、これからカンボジアの将来を担っていく子どもたちを狙った犯罪も多発しているという悲しい状況があります。それらの人権侵害の犯罪の中でも、性的搾取目的の人身取引問題は深刻な問題のひとつです。

性的搾取を目的とする人身取引では、女の子が買春宿に売られて深刻な人権侵害にあう事件がよく新聞などで報道されています。人身取引は違法なので、実際にどの程度の被害者が出ているのかが統計上はわかりませんが、新聞報道などから推測すると、少なからずの子どもたちが被害にあっているのは間違いありません。

カンボジアでは、年齢を18 歳以上だといつわって都市部・マレーシアなどに出稼ぎにでる子どもたちも少なくなく(保護者や役所の職員も結託して詐称してしまう)、被害者が子どもであるか大人であるかを確定することも容易ではありません。子どもたちが最初に出稼ぎに出た先はレストランや家事労働などであったとしても、その次に大人の「甘い話」にだまされて仕事を紹介されて移動した出稼ぎ先が買春宿であった、あるいは、雇用主に性的に虐待される環境であった、という話は少なくありません。

「ニワトリのように売られちゃった」という人身取引被害者となった少女の発言は、人身取引問題が人間を人間として扱わず、少女たちの心にどの程度深い後遺症を残してしまうかを表しています。

また同時に、性的搾取の目的で、多くの男の子も被害にあっている状況を示す新聞報道やNGO の報告があります。男の子の場合は、加害者が外国人である場合が多く、幼児を性的に好む性向のある男性がカンボジアに来訪して子ども性的に搾取して逮捕される事件が相次いでいます。外国人男性は、渡航前にカンボジアの現状をしっかり把握して戦略を練り、逮捕されないように子どもたちに近づいて性的虐待を繰り返すといった、悪質なケースが多く報道されています。

近年のカンボジア情勢から推測すると、カンボジアは2008 年の世界経済危機までの10 年間、毎年10%以上の経済成長率で発展してきていて、それにともなって買春などの需要も拡大していると推定されます。そして、警察の手入れやNGO の取り組みから、多くの子どもたちが被害にあっているのは明らかで、被害にあっている子どもの数が増加していることはあったとしても、減少していることはないと思われます。

人身取引から子どもを守るための取り組み

この、被害者の一生を左右するほどの精神的・肉体的ダメージを与えてしまう子どもの人身取引に対して、カンボジア政府・国際機関・NGO がさまざまな取り組みをしています。

人身取引対策は、①防止(人身取引にあわないための啓発活動、加害者に対する警告)、②保護(被害者の救出・身体的保護)、③訴追(加害者の逮捕・訴追)、④被害者への社会復帰・自立支援、の4つの異なる対策があり、それぞれは密接にかかわっています。カンボジアでは、防止の分野で政府(教育省や女性省)やシーライツなど多くのNGO が活発に活動していますが、まだカンボジア全土をカバーできていません。保護については、基本的には警察(内務省)の役割ですが、被害者を見つけ出したNGO が警察と協力して実施する場合も少なくありません。訴追は司法省、弁護士はNGO が無償提供する場合が多く(公選弁護士制度が脆弱であるため)、被害者の社会復帰は多くのNGO がシェルターや職業訓練センターなどの場で提供しています。これらの一連の人身取引への対策には、国籍を問わず多数の団体がかかわっています。

そこで、2008 年にカンボジア政府は「人身取引のための国家委員会」(議長は内務省)を設置し、関係者間で連携できるようにしました。この委員会は、「防止のための小委員会」など6 つの分野別委員会から構成されていて、「子ども問題に関する委員会」は社会福祉省が議長となっています。これらの委員会には、国際機関・NGO も数多く参加し、政府が実施する予定の「対人身取引国家計画」の実施のために関係者全員で取り組む体制づくりが進んでいます。

被害者支援のための取り組み

一方、被害者の社会復帰・自立のための支援への取り組みは、体制そのものが不備であり、また取り組みも、主体である子どもたちの意見が十分取り入れられているとは言いがたく、ライツ・ベース・アプローチ(権利を基にするアプローチ)となるにはまだ多くの取り組みが必要です。本来、このような支援は行政が提供するべきですが、社会福祉省にはシェルターがなく(以前はあったのですが問題があり閉鎖されたまま)、NGO にその仕事をすべて任せています。人権保護の観点からは、シェルターで提供されるサービスについてその内容(カウンセリングや保健サービスなど基本的なもの)と、それらの質(人権配慮がなされているかなど)について、専門的視点から管理することが必要です。カンボジアでは、残念ながら、最低限のサービスを確保するための管理体制がまだ整っておらず、シェルターを運営する団体がそれぞれ独自にサービスを提供しています。したがって、きめ細かいサービスを提供できているシェルターもあれば、住むところを提供する程度にとどまっているシェルターもあり、被害者がどのシェルターに保護されるかで受けられるサービスが大幅に異なっているのが実情です。

被害者支援の中でもとても重要な支援である、被害にあった少女たちをエンパワーする取り組みは、NGO が中心となって進められています。中でも、COSECAM(Coalition to Address (Sexual) Exploitationof Children in Cambodia. カンボジアの子どもの性的搾取撲滅のためのネットワーク)というNGO のネットワーク団体は、異なるNGO が運営するシェルターで生活する被害者の少女たちが、共に生活している仲間の少女たちをエンパワーするような活動ができるよう支援しています。被害者の少女たちは、定期的にプノンペンに集まり、他団体のシェルターで生活する少女たちがどのような活動を実施したかの情報共有をし、どうすれば自分や仲間たちがトラウマなどを乗り越えて社会復帰できるかを話し合うことでお互いにエンパワーしています。まだ小規模な活動ですが、被害者の少女たちに団体の枠を超えてつながる機会を提供し、幅広い視点から支援していくことで、彼女たちがトラウマか抜け出して自分たちの人生をポジティブに考えて人生を歩んでいく手助けをしているのです。

今後の課題

子どもたちが人身取引の被害にあわないようにするための防止活動はきわめて重要な分野であり、日本が貢献できる分野です。人身取引とは何か、どうやれば被害にあわないように自分を守れるのかなどについて紹介するためのパンフレットを作成したり、子どもを対象とした人身取引のドラマを上映するなど、視覚的に理解できインパクトもある研修教材などがとても大切です。けれども、その作に、ライツ・ベース・アプローチの視点を取り入れていく取り組みが、カンボジアではまだ遅れています。

そこで、日本の経験や知識を伝えることを通じて、効果的な予防活動実施に貢献することができます。また同時に、実際に被害にあった子どもたちへの社会復帰のための精神的支援もきわめて重要です。この被害者支援についても、カンボジアでは取り組みが遅れているため、今後重点的に実施していく必要性があります。シェルターの内部の建物の整備(安全面やプライバシーの確保など)、あるいはシェルター運営(カウンセリングサービスをライツ・ベース・アプローチにする、社会復帰のためのライフスキルの充実など)も、日
本がこれまでの蓄積してきた経験をいかして支援できる分野です。今後、日本政府、NGO、そして個人のレベルでも、カンボジアの人身取引の被害者に対する支援が実施されていくことを期待します。

パンニャサストラ大学(プノンペン) 中川 香須美

子どもの権利についての研修や人身売買・児童労働に関する子ども向けの啓発に必要な文房具を配布することができます。

童話や物語の本を5冊購入し、本が傷まないように補強してから図書室に届けることができます。

村の清掃と衛生について学ぶ「ゴミ拾いキャンペーン」を1回開催することができます。