お知らせ

ネパール大地震の現地視察報告会を開催しました

報告

2015年09月19日

 

ネパール大地震の現地視察報告会を開催しました

こんにちは。インターンの八野井です。

8月30日、JICA地球ひろばでソーシャル・グッド・ソフィアンの会との共催で行われたネパール大地震の現地視察報告会の内容をお伝えします。

今夏、代表理事の甲斐田がシーライツの支援する二つのNGO(人身売買防止に取り組むマイティ・ネパール、児童労働問題に取り組むCWIN)を訪問しました。当日は、現地で撮影した崩れたままの建物や路上の子どもたちなどの写真とともに、最新の支援状況、特に被災した女性と子どもたちの現状が報告されました。また、被害にあった子ども自身が出演する、人身売買や児童婚を防ぐためのテレビコマーシャルが紹介され、ローカルNGOの具体的な取り組みを目にすることができました。最後の質疑応答では、いろいろなバックグラウンドを持つ参加者の方々から多くの質問があり、短い時間ながら濃密な報告会となりました。

以下、報告の内容をまとめました。

ネパール大地震現地視察報告会

ネパールの状況

まず、UNICEFの世界子供白書2015の資料を用いて、ネパールにおける女性と子どもの置かれた状況を示す指数を、カンボジアと比較しながらみていきました。児童婚の割合は、カンボジアが5人に1人であるのに対し、ネパールは5人に2人とかなり多い状況です。妊娠・出産によって死亡する女性の割合や、「夫から家庭内暴力を受けても仕方がない」と妻が考えている割合が両国ともに高い現状にありました。

ネパールには14の県と75の郡があり、首都カトマンズ東に位置するバクタプル郡は世界遺産のある観光地ですが、地震によって大きな被害を受けた地域の一つです。壊れたままの家々が広がる写真にはかつて17世帯の家があったとのことでしたが、未だ誰も住んでいません。この地域でくず拾いをして生計を立てている少女たちは、インドから移住してきた子どもたちで、CWINが支援を行っています。近くにある避難キャンプから、学校に通う子もいます。観光客が激減するなか、マントラの絵の練習をする子どもや店に客が来なくても、日々商売を続けている男性の写真も紹介されました。

ネパールの状況を説明する甲斐田代表理事

震災後に子ども・女性が直面するリスク

4月25日、5月12日の2度にわたる地震によってネパールでは約8,000億円の経済的被害があり、これは国内総生産の36%を占めます。貧困線(一日1.25ドル/約155円)以下で暮らしている人たちの数は、震災後に100万人も増えました。ネパール全国の75郡のうち影響を受けたのは31郡で、そこには約500万人が暮らしています。18歳未満の子どもは300万人、中でも深刻な被害を受けた子どもは110万人に及びます。子どもたちの中にはひとり親の子が孤児になったケース、片親が亡くなってひとり親家庭となったケース、また震災後に親と離ればなれになってしまったケースなどがみられ、家屋が崩壊し子どもを守る場所が失われてしまった状況の中で、子どもたちが人身売買のリスクに晒されやすくなっています。

によれば、二度のの地震後、682人の子どもが人身売買の被害にあう前に救出されたといいます。もともとネパールでは、年間15,000人の少女たちが主にアジアの性産業に売られていると言われ、受入国は従来のインドのみならず、中国や中東地域にまで広まっています。移動経路は多様化し、携帯電話会社で働けるという話にのせられて飛行機経由でマレーシアに若い女性たちが向かうケースもありますが、これも人身取引のひとつです。

UNFPAは、震災後に28,000人の少女たちが性産業を含むジェンダーに関する暴力を受けていると発表しています。それまでは子どもを手渡すことに慎重であった両親も、震災の被害を受けて、「このような状況では仕方がない。」と娘を海外へ働きに出るように促す傾向にあるようです。

7月下旬の日本ユニセフ協会の報告会における、UNICEF南アジア地域事務所で子ども保護官を務める鈴木さんの孤児院ビジネスに関するお話も紹介されました。

孤児院ビジネスに狙われる子どもたちは震災後一層増えているといいます。孤児院ビジネスとは、本来孤児ではない子どもたちを孤児院に集め、子どもとの交流を目的としたボランティアツアーの参加者から寄付金を回収する観光ビジネスです。斡旋業者は村に行き、「孤児院に行けば、お金がもらえて、教育も受けられる。」と言って回り親に子どもを手渡すよう説得します。日本には600の児童福祉施設がありますが、ネパールには登録が確認されるものだけで800の孤児院があり、日本との人口比を考えると多すぎる印象を受けます。さらには、これらの孤児院のほとんどがカトマンズなどの観光地にあります。子どもたちはボランティアとの交流を楽しむ一方で、「愛着と離別」を日常的に繰り返すこととなり、心に大きなダメージを残しています。
カンボジアにおける孤児院ビジネスは以前から問題視されてきましたが、まさに同じ状況が震災後のネパールでも起きているのです。
子どもが搾取の対象とならないように、また、無意味に家族と切り離されることのないように、孤児院、旅行会社、斡旋団体それぞれと協力関係を築いて、根気よく支援に取り組んでいく必要があります。

マイティ・ネパール/ Maiti Nepal

93年の設立以来、人身売買問題に取り組んでいるマイティ・ネパールは、人身売買の被害者のリハビリセンターや、HIV患者のためのホスピスを運営しています。また、カウンセリングや子どもの権利教育、職業訓練プログラムも提供しています。インドへ売られようとするところを保護されある少女が、「インドへ行かせてくれないなら、代わりに仕事をちょうだい!」と主張したそうです。その後職業訓練を受け、彼女は今では国内大手の鶏肉の唐揚げチェーンの幹部社員として活躍しています。

震災後の7月、インド国境のチェックポイントで27人の被災した女性を保護しました。女性たちは中東で良い仕事があると紹介され、借金75,000ルピーを負わされていました。保護されるまで、自分たちが騙されているとは全く知らなかったということです。マイティ・ネパールは、国境のチェックポイントで一時停車中のバスに乗り込み、人身売買の疑いのある子どもがいないかどうか注意深く監視しています。これまでは一日につき約30人が保護されてきましたが、震災後は50人以上に及んでいるそうです。代表のアヌラダ・コイララさんは、なるべく多くの子どもと女性たちが人身売買の被害に遭わないようにすることが出来るように、労働省や子ども福祉省などの政府とも連携していくつもりだと述べています。

CWIN (Child Workers in Nepal Concerned Center)

働く子ども、ストリートチルドレンの支援に取り組むCWINの創立者ガウリ・プラダン氏は、「子どもへの支援は終わりのない社会変革のプロセスだ。」と言います。また、現CWIN代表のスムニマ・トゥラダー氏は子どもの権利を守るために、政府を巻き込んで制度を作っていく必要性を強調しています。

CWINは子どもの権利の啓発活動として、毎週30分のテレビやラジオの番組を担当しています。また、子どもたちが人身売買や児童婚の被害にあわないよう、1分間のオリジナル啓発動画も制作しています。どれもCWINの保護する子どもたち自身が出演していて、報告会では2つの動画が紹介されました。児童婚の動画は、学校を欠席する日々が続いてしばらく、久々に再会した友達から、「妊娠したから、もう学校へは来られない。」と泣きながら告白されるというものでした。近年では恋愛し結婚するしかないと考える10代の子どもたちが増えているといいますが、震災で家や親を失った子どもたちが安易に早期結婚してしまう危険も高まっているでしょう。”Stop Child Marriage”や”Take a Stop against Child Trafficking”といった子どもからのメッセージは、親や周囲の大人の心にも訴えかけるものでした。
CWINの支援する被災地では、24時間スタッフのいる子ども保護デスク、女の子が集まるスペースが設けられていました。シンドパルチョークから一時的に避難してきた人の集まるボダナートキャンプでは、いつ立ち退きにあうかわからない状況でも、「学校は楽しい。」と勉強する子どもたちの姿がありました。CWINでは、親たちの収入向上のために、エコバックを作る職業訓練を検討しているということでした。

二つの現地NGOの共通点として、
①主体性があり、かつRBA (ライツ・ベースアプローチ)によるエンパワーメントの側面
②地域住民や警官などあらゆるステークホルダーとのネットワーク
③政府と積極的なつながりがあること
④代表のファイティングスピリット、優秀なスタッフがそろっていること
があげられました。それぞれの代表は子どもたちを性的虐待したり人身売買したらする加害者から脅しを受けるようなことがあっても、子どもや女性たちのために闘う姿勢を持っていました。

最後の質疑応答では、以下のような質問がなされました。
・震災後に家族から出稼ぎを勧められるのはなぜか。
・リハビリセンターの子どものうち何割が生き残れるか。
・人身売買のチェックポイント(監視員)に足りない技術・物資とは何か。
・雨季や山間部といったアクセスの悪い場所の支援の緊急度
など、他にも数多くの質問がありました。

「孤児院ビジネスに関わる観光ツアーをどのようにして見破れるのか。」という質問に対しては、訪問先のNGOがチャイルド・プロテクション・ポリシー(Child Protection Policy)を表明しているかどうかが一つの指標となるとのことでした。

交流会の様子

報告会後にはネパールの甘いお菓子を食べながら、交流会を行いました。
ネパール大地震から約4カ月がたち、国内の新聞やテレビでネパールの現状がとり上げられることが少なくなりましたが、震災後に人身売買の被害にあった女性の心境や、現地の子どもたちの声を知り、子どもや女性を取り巻く状況は未だに危険の多い深刻な状況が続いていることがわかりました。
家がなくても「学校は楽しい。」「子どもの権利を広めて社会を変えたい。」と笑顔を向ける子どもたちを守っていくために、シーライツは引き続き3月末まで支援を受け付けています。

ネパール大地震緊急支援ご協力のお願い
http://www.c-rights.org/news/news2/news-c1/post-117.html

子どもの権利についての研修や人身売買・児童労働に関する子ども向けの啓発に必要な文房具を配布することができます。

童話や物語の本を5冊購入し、本が傷まないように補強してから図書室に届けることができます。

村の清掃と衛生について学ぶ「ゴミ拾いキャンペーン」を1回開催することができます。